さんますくい

今年の夏にキッチンをリフォームした。夏の始めまではそんなことはまるで考えていなかったのだが、某虫の子供に度々遭遇して嫌気がさし、急にキッチンのリフォームを提案したら妻が受け入れてくれた。

 

キッチンをリフォームすることで虫が住み着きにくい環境を整える他にもいくつか良いことがあった。その一つが両面焼きグリルである。

 

昨年までは片面焼きのグリルだったので、さんまを焼く時などは途中で裏返さなければならない。ちなみにさんまは5、7、5(予熱5分、片面7分、裏返して5分)なので、計17分を要していたのだが、これが両面焼きだと5、7の計12分で済む。

 

まあ時間的にはたいして変わらない。

 

のだが、裏返すときのリスクを考えると随分と進歩している感じがする。両面焼きグリルになって裏返すときのリスクは無くなったものの、皿に移すときのリスクは相変わらずである。そして私はこのとき、いつも小学生時代を思い出す。

 

私は小学生時代もニュータウンで育った。ニュータウンというものは新しくできた町だけあって、寺社仏閣が存在しないことが多い。今住んでいるニュータウンにもそれらしきものは見当たらないのだが、小学生時代を過ごしたその町もまたそうであった。そんな町なので、夏祭は寺社仏閣の境内ではなく、小学校で開催されるものだった。校庭の真ん中に櫓が組まれ、そこで演奏される音楽に合わせて周りで盆踊りを踊る。

 

その日は町中から人が小学校に集まるので、校庭は人でいっぱいだった。ある夏祭りの日に、私が縁日を回っていると、友人が駆け寄ってきて「あっちでさんますくいをやってるから一緒にすくおうぜ!」と声をかけてきた。祭りといえば金魚すくいだと思うが、誘われるがままについていくと、金魚すくいをしているその横に『さんますくい』と書いた屋台がある。人混みをかき分けて覗いてみるとそこにはたくさんの七輪が並んでいた。

 

なるほど、七輪の上で焼かれたさんまを鉄製の菜箸で皿にきちんと移すことができれば、それをそのまま食べていいよというわけだ。友人と一緒に挑戦してみたがこれがなかなか難しい。焦って取ろうとすると身がほぐれて切れてしまう。しかも小学生の箸づかいである。上手く掴むことができずに無残な姿になったさんまたちが星の輝く夏の夜空を茫然と眺めている。私も意を決してエイヤッと掴んで移そうとしたが残念な結果に終わってしまった。

 

しかし今の私は違う。あの時とは違う大人であるし、何しろ自宅には箸以外の道具がある。フライ返しを使って慎重に網からさんまの体を剥がし、左手で持った皿をグリルの横に添える。そしてフライ返しから持ち替えたトングを使ってそーっと皿にさんまを移していく。

 

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いただきます。もう秋も終わりに近いが、あと数回はさんまを食べたい。

 

 

 

 

 

 

※この話はフィクションに基づいた事実です。