鉄は熱いうちに

人に何かを教えるというのはなかなか難しい。いつまでたってもそれは変わらなかったけれど、いくつか心がけていることがあった。その中でも一番気にしていたのが、“その子がそのことに興味を持っているその時が一番の教え時”ということかもしれない。

 

職務柄、人に何かを教える機会というのは沢山あったのだけれど、僕がまだ20代の頃、あるスタッフさんにこんなことを言われた。

 

「教えてくれれば何でもできますよ」

 

もしかしたら僕が彼女のことを少し見くびってしまっていたのかもしれない。あるいは彼女自身の中で自分の評価について釈然としないものを抱えていたのかもしれない(もしかしたらある種の嫉妬のような感情かもしれないが)。僕が「これってできる?」というような感じに聞いてみると、やや怒ったような調子で彼女はそう言ったのだ。

 

僕が勤めていた会社は業界では最大手の大きな会社で、各種マニュアル類は整備されており、どのくらいのキャリアのスタッフにどの程度のことを教えるのかというようなことはガイドラインがかなり整備されていたので、基本的にそれに則って教えるようにしえていた。僕の感覚では、まだ少し早いかなというタイミングだったので思わずそのような聞き方になってしまったのだが、そもそもどのスタッフにも同じようなタイミングで教えるというのは間違っていたということにその時気づかされたのだった。

 

人によって基礎になる知識も地頭も意欲も興味関心もそれぞれ。中でも意欲や興味関心には波があり、その日その時を逃してしまうといつまたそれが湧き上がってくるのか分からない。教える立場の人間が、自身の余裕のなさやつまらない拘りなどによってそのタイミングを逸してしまったせいで、せっかくの成長の芽を摘み取ってしまうのでは勿体無いのだ。

 

それ以降、どんなにキャリアが浅いスタッフが相手だったとしても、職場で行われていることに関して興味関心意欲があって質問が飛んできたときは丁寧に答えるように心がけて、場合によっては一歩踏み込んで教えるようにもしていた。

 

育児もまた同じことが言えるのだろう。子供の興味関心は絶えることがなく、吸収力も凄まじい。子供が何かに興味を示しているその時その瞬間をなるべく見逃さずに教え、伝え、一緒に学んでいきたい。最近、刻一刻と急成長を見せる1歳半の息子を見てそんなことを思った。